職人の「勘」をデータ化する3つの方法と会社資産化の手順

「この壁はシーラー2回入れた方がいい」「今日の気温なら希釈率を5%上げる」——ベテラン職人の判断は言語化されないまま現場で消えていきます。その「勘」をデータとして蓄積し、会社の資産に変える方法を解説します。


「勘」の正体は、蓄積された変数の組み合わせです

職人歴20年のベテランが「この下地はもう一回ケレン(さびや旧塗膜を除去する工程)をかける」と言うとき、その判断には複数の変数が絡んでいます。

  • 築年数と外壁材の種類
  • 前回塗装からの経過年数
  • 現在の気温・湿度・日射角度
  • 前回使用した塗料の種類と希釈率
  • 職人自身が過去に同条件で施工した経験値

夜21時の事務所、現場監督が手書きの日報をめくりながら「あの現場、確かチョーキング(塗膜表面が粉化する劣化現象)がひどかったよな」と記憶を掘り起こしている光景は、どの塗装会社にも存在します。

問題は、この記憶が「その人の頭の中」にしかないことです。

現場が年間50件あれば、50件分の気象条件・下地状態・使用材料・仕上がり評価が蓄積されているはずです。しかし多くの会社では、それらは日報のメモ欄か、職人の経験値として属人化されたまま消えていきます。

「勘」の正体は、入力変数に対する最適解のパターン認識です。データとして記録されれば、再現性のある判断基準に変換できます。

属人化が引き起こす、見えにくいコストの話

築30年のマンション大規模改修を例に考えます。外壁の塗り替えで標準塗布量(1㎡あたりの塗料使用量)を0.05kg外すと、100㎡の壁面で5kg分のロスが出ます。材料費換算で数千円ですが、これが年間30現場で繰り返せば、年間で相当な金額になります。

しかし現場ごとの材料歩留まり(使用量に対する有効活用率)を記録していない会社では、このロスは「なんとなく多くなった」で終わります。

現場帰りの軽トラ、助手席に積んだ余りのクリマイ(クリーンマイルドシリコン)の缶を見ながら「また余ったな」で終わる日常です。

属人化によるコストは主に3層構造になっています。

  • 第1層:材料ロス(希釈率の個人差・余剰在庫)
  • 第2層:工数ロス(ベテランとの段取り差・やり直し発生)
  • 第3層:情報ロス(現場ごとの利益が見えない・見積精度が上がらない)

第3層が最も深刻です。現場が終わっても「あの現場、実際いくら残ったか」が把握できない会社は、次の見積もりの根拠も感覚値になります。感覚値の見積もりは、利益率のブレを固定化します。

Angaが塗装業に特化した理由——開発者自身が現場を知っている

汎用のAIツールや工務店向け管理システムは、塗装業の細かい変数に対応していません。色番の入力欄に「N-80」と書いても、日塗工(日本塗料工業会)の色見本との紐付けはできず、NDやSRの体系とも連動しません。

Angaを開発したのは、株式会社イーテクノス代表の井上恭介氏です。塗装会社の経営者として、色番N80の誤発注・現場ごとの利益の見えにくさ・「職人の癖」が引き継がれない問題を当事者として経験してきました。

LINEに溜まる職人からの日報。「クリマイ2缶追加で」という略語。吹付の際の希釈率変更の口頭連絡。これらを拾えないシステムは、現場では使われなくなります。

Angaが解決しようとしているのはこの点です。

  • 職人の略語・呼称を学習し、正式品番に変換する
  • 現場ごとの材料使用量・人工(にんく:職人1人1日の作業量単位)・工期を記録する
  • 色番・希釈率・下地処理の記録を現場単位で蓄積する
  • 蓄積データをもとに、次の見積もり精度を上げる

「塗装業にしか通じない言語を理解するシステム」という設計思想が、汎用ツールとの本質的な違いです。

「勘」をデータ化するための3つのステップ

職人の判断をデータとして蓄積するには、入力の負荷を限りなく小さくする必要があります。日報を書かせるだけで精一杯の現場に、新しいフォームを追加しても定着しません。

Angaが想定する蓄積のステップは以下の3段階です。

ステップ1:記録の入口を統一する

LINE・音声メモ・写真——職人が現場で使っている手段をそのまま入力チャネルにします。「吹付前の気温18度、希釈率8%に変更」という一言メモが、データベースの一行になります。

ステップ2:現場単位で紐付ける

材料・人工・歩掛(作業1単位あたりの工数)を現場IDに紐付けて蓄積します。養生・下地処理・中塗り・上塗りの工程ごとに分解することで、どの工程で原価が膨らんでいるかが見えるようになります。

ステップ3:次の現場に返す

「この築年数・外壁材の組み合わせで過去5件の平均材料費はいくらか」を見積時に参照できます。感覚値ではなく、自社データが根拠になります。

現場10件分のデータが蓄積されれば、見積もりの精度は体感で変わります。ベテランの「勘」は、データ化されて初めて会社の資産になります。職人が辞めても、その判断基準は残ります。

約20時間
現場10件規模の会社で、発注・日報・材料確認の連絡処理に消える月間工数の目安

約6〜7割
希釈率・塗布量の個人差により、余剰または不足が生じる現場の感覚的な頻度

3割未満
現場単位で実際の利益を工程別に把握できている塗装会社の体感的な比率

日報より先に、材料の癖を覚えてほしかった

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