築30年超の外壁、AIが職人の目視検査を超えた実証レポート
「この下地、まだいけるやろ」──ベテラン職人の一言が、後の塗膜剥離につながった経験はありませんか。築30年超の外壁塗装現場で、AIに現場写真を読み込ませた塗装会社が得た答えは、熟練の目視チェックすら上回るものでした。その実証プロセスをレポートします。
「まだいける」が招く手戻り──ベテランの経験則が裏切る瞬間
夜21時の事務所。現場帰りの監督が軽トラのシートに積まれた写真プリントを一枚ずつ見ながら、翌日の段取りを組んでいます。
外壁塗装における下地処理の判断は、長年の経験が頼りです。チョーキング(塗膜表面の粉化)の進行度、旧塗膜の付着力、クラックの深さ。これらをベテランが「感覚」で読み取り、ケレン(下地調整)の等級や工程数を決めてきました。
問題は、その「感覚」が揺れることです。
- 朝一番の光と午後の逆光では、クラックの見え方が変わります
- 職人によってケレン1種・2種の判断基準が異なります
- 疲労や天候で集中力が落ちた夕方は見落としが増えます
ある中堅塗装会社では、築32年のRC造マンション改修工事で、下地処理の判断ミスによる塗膜剥離が発生しました。手戻り工事だけで3人工(にんく:作業者1人×1日分の工数単位)を余分に使い、材料費と合わせて数十万円のロスになりました。
「あの時の写真を今のAIに読ませたら、どう判断するんやろと思って。それが試してみたきっかけです」──同社現場監督の言葉です。
AIが現場写真を読む──何が「見えて」いるのか
LINEに溜まる職人からの日報写真。以前は「受け取って確認して終わり」でしたが、Angaに連携してからは、その写真が診断データに変わります。
Angaが現場写真から読み取る情報は、主に以下です。
- チョーキングの進行段階(軽微・中程度・要ケレン1種相当)
- 旧塗膜のふくれ・割れ・剥がれの分布範囲
- 目地シーリングの劣化パターン(ひび・痩せ・剥離)
- クラック幅の推定と補修優先度のランク付け
実証に参加した塗装会社では、同一現場の写真をベテラン職人2名とAngaに同時に評価させました。
対象は築28年の外断熱仕様ALCパネル外壁。旧塗膜の色はND-105相当の淡彩色で、チョーキングが目視では「軽微」と判断されやすい状態でした。
ベテラン2名の判断は「ケレン3種で十分、下地処理は標準工程」で一致しました。Angaは「南面と西面の一部にケレン2種相当の処理が必要な範囲あり」と判定し、その根拠として画像内の微細な膨れ分布を座標ベースで提示しました。
後日、実際に施工した職人が「確かにあの辺、めくったら浮いてた」と証言しています。肉眼では見逃していた範囲を、AIが静止画から特定していました。
なぜ塗装業専用なのか──Angaが「現場の言葉」を知っている理由
色番確認の電話が鳴るのは、いつも塗料発注の直前です。「N-80って日塗工の番号やんな、ND-80と違う?」──こういう確認が現場では日常的に発生します。
汎用AIツールにこの質問を投げると、概念的な説明は返ってきます。しかし「今この現場の色に合うSR系かND系か、希釈率は何%か、3分艶か5分艶か」という実務判断には応えられません。
Angaが塗装業に特化している理由は、開発背景にあります。開発者は株式会社イーテクノス代表の井上恭介氏。自身が塗装会社を経営してきた経験を持ち、「職人が現場でつかう省略語をAIが理解できなければ意味がない」という発想からAngaを設計しました。
具体的には、以下のような塗装業固有の文脈をAngaは学習しています。
- 「クリマイ」→クリーンマイルドシリコン(関西ペイント)として認識
- 「ND-75で3分」→ND-75番・3分艶仕上げの発注として処理
- 歩掛(ほがかり:作業1単位あたりの工数)をもとにした工程見積もり
- 現場ごとの出面(でづら:実際の稼働人数)管理と原価の紐付け
「現場ごとの利益が見えていなかった。Angaを使うようになって、どの現場が薄利なのかが初めてわかりました」──導入した塗装会社社長の言葉です。
写真1枚が現場管理を変える──導入後の現場フロー
現場帰りの軽トラ助手席に置かれたスマートフォン。職人がLINEで送った写真が、そのままAngaの解析フローに流れていきます。
従来のフローと比較すると、変化は明確です。
【従来】
- 職人が写真撮影 → LINEで監督に送信 → 監督が目視確認 → 翌朝の段取りを口頭指示 → 発注書を手書きまたはExcelで作成
【Anga導入後】
- 職人が写真撮影 → Angaが自動解析・劣化箇所を抽出 → 監督がAngaの判定を確認・修正 → 工程・発注内容をAngaが草案作成 → 確認・送信のみ
このフロー変更で体感として変わったのは、「見落としの減少」と「段取りの前倒し」です。10件現場が同時進行する繁忙期では、発注書と日報処理だけで月20時間以上かかることは珍しくありません。その時間が半減したという声が複数の導入社から出ています。
精度の面でも、下地処理の判断にAIの二重チェックが入ることで、手戻り工事の発生リスクが下がります。塗膜剥離による補修は、材料費以上に職人の工数を消費します。1現場でも防げれば、ツールの導入コストは十分に回収できます。
ベテランの経験を否定するのではありません。AIの解析と熟練の判断を重ねることで、現場の精度が上がります。Angaはその「重ね方」を塗装業の言葉で設計したツールです。
どの現場が赤字か、Angaで初めてわかりました