塗装業 利益率が消える理由|手残り9万円の真実

人工24人、缶数182缶。売上648万円の現場なのに、通帳に残ったのは9万円でした。歩合と日当を口約束で決め続けた塗装会社が、利益率を初めて工事別に計算した記録です。


1. 受注したときは「いい現場」だった

2. 雨で3日流れた朝、歩掛の狂いが始まった

3. 完工しても現金が残らなかった理由

4. 次の現場から変えた3つのこと

受注したときは「いい現場」だった

鉄骨造3階建て、築28年の賃貸マンション改修工事です。外壁と屋上防水、鉄部塗装込みで請負金額648万円。工期は21日間で組みました。

社長は職人歴18年、独立して6年目。職人は常用3人と外注2人の体制で、日当は職人ごとに「だいたい2万」「あいつは2万2千」と口頭で決めてきました。歩合も棟梁経験のある職人には「利益が出たら多めに」と曖昧なまま渡してきました。

見積もり時点での粗利は計算上32%、208万円の想定でした。数字だけ見れば悪くない現場です。

雨で3日流れた朝、歩掛の狂いが始まった

着工10日目、下地処理とケレン(下地調整)を終えて吹付塗装に入る予定の朝、天気予報が外れて雨が降りました。

工程を組み替えて鉄部塗装を先行させましたが、職人2人が別現場の応援に回っていて出面(現場に入る人数)が足りません。急遽、外注を1人追加しました。日当2万3千円、口約束です。

缶数が足りなくなった

当初発注は上塗り用シリコン塗料42缶でしたが、下地の傷みが想定より深く、下塗りに8缶追加。標準塗布量から逆算した見積もりが甘かったのです。

結局、工期は21日から26日に延び、人工は当初計画の19人から24人に膨らみました。缶数も154缶の予定が182缶になりました。

完工しても現金が残らなかった理由

工事は無事に終わり、施主からのクレームもありませんでした。現場としては「成功」です。

ところが決算前に社長が通帳を見ると、この現場に紐づく現金はほぼ残っていませんでした。売上648万円に対して、職人への支払い総額は312万円。当初想定より58万円多く出ていました。

材料費も追加8缶分でおよそ6万円増、外注の緊急手配で日当も高めに払っています。歩合として棟梁に渡した15万円も、利益が出た前提の口約束でしたが、実際の利益率は計算していませんでした。

工事別に計算して初めてわかったこと

決算時にこの現場だけ切り出して利益率を出すと、想定32%に対して実際は14%。金額にして208万円想定が91万円まで落ちていました。延びた5日分の日当と缶数追加が、そのまま利益を削っていたのです。

次の現場から変えた3つのこと

社長がまず変えたのは、歩合と日当を工事着工前に金額で書面化することでした。「雨で延びた場合の追加日当は2万5千円まで」と条件も先に決めました。

次に、缶数と人工を工程表に紐づけて、進捗のたびに粗利を仮計算する運用にしました。紙の日報では追いつかないため、現場ごとの数字をその場で入力する仕組みが必要でした。

私たちイーテクノスも塗装会社を経営していて、同じように工事が終わるまで利益率が見えない時期がありました。その経験から、現場ごとの人工・缶数・歩合を入力するとその場で粗利が出るクラウド管理ツール「Anga」を作りました。

口約束を悪者にする話ではありません。ただ、口約束のまま工事が延びると、利益率を計算する機会そのものがなくなります。工事別の粗利が見えれば、次の見積もりで歩掛と日当の基準を直せます。

歩合は気持ちで払ってきた。数字で見たら気持ちだけじゃ払えないとわかった

よくある質問

Q. 塗装業の利益率は何%あれば健全ですか

工事規模や外注比率で差はありますが、粗利率25〜30%を確保できていれば固定費を吸収しやすい水準です。今回の現場のように14%まで落ちると、人工や缶数が想定を超えた分がそのまま赤字圧力になります。工事別に粗利を出して初めて基準の妥当性がわかります。

Q. 職人の日当や歩合を書面化すると関係が悪くなりませんか

多くの現場では逆です。曖昧なまま延びた工期の追加分でもめる方が関係を壊します。着工前に「延びた場合はいくら」まで決めておくと、職人側も安心して動けます。書面化は不信ではなく、条件を先に共有する作業です。

Q. 工事ごとの利益率はどうやって計算すればいいですか

売上から材料費・外注費・人工費・歩合を差し引いた粗利を、工事単位で出すのが基本です。手作業だと工事終了後になりがちなので、進捗の途中で仮計算できる仕組みがあると、延びた工程での判断が早くなります。

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