98万円が78万円に化けた塗装業の値引き構造

98万円が78万円に化けた塗装業の値引き構造

築22年・延べ床38坪の戸建て、見積もり98万円が最終78万円に化けた話です。値引いたのは社長の一存でした。原価も粗利も見ないまま数字だけ動いた現場の記録です。


目次

1. 98万円の見積もりが78万円になった日

2. 値引いた20万円がどこから削られたか誰も追わなかった

3. 社長が「感覚」で判断していた本当の理由

4. 次の現場からやったこと

98万円の見積もりが78万円になった日

埼玉県内、築22年の戸建て外壁・屋根塗装です。延べ床38坪、下地はサイディング。ケレン(下地の汚れやチョーキングを落とす作業)から中塗り・上塗りまで、シリコン系で工期6日、人工は延べ8人工の見積もりでした。

塗料は外壁用が4缶、屋根用が3缶、下塗り2缶の想定で、材料費と労務費を積んで98万円。粗利率はざっくり32%で組んでいました。

元請けの担当者から電話が来たのは提出3日後です。「他社が75万円で出してきた。同じ仕様でそこまで下げられませんか」。社長は現場も見ずに即答しました。「78万円まで頑張ります」。

値引いた20万円がどこから削られたか誰も追わなかった

社長の感覚は「まあ利益は残るだろう」でした。しかし78万円に着地した時点で、原価と粗利を数字で確認した人は社内に誰もいませんでした。

実際に現場が始まると、雨で2日流れて工期が8日に延び、足場屋への支払いが追加で3万円発生。下地の傷みが想定より深く、下塗りが2缶から3缶に増えました。

数字を並べると粗利はこう変わった

材料費は当初想定の29万円から34万円に増加。人工も8人工の見積もりに対し、実際は雨天調整で9.5人工かかりました。労務費換算で単価2万円としても、想定16万円が19万円に膨らんでいます。

材料費34万円、労務費19万円、足場追加3万円、諸経費5万円。合計61万円が原価です。売上78万円から引くと粗利は17万円、粗利率はわずか21.8%でした。最初の見積もり通り98万円なら粗利は37万円、率にして37.8%あったはずの現場です。

社長が「感覚」で判断していた本当の理由

この社長を怠慢だと責めるのは簡単です。ですが取材を重ねると、多くの塗装会社で同じ構造が見えてきます。原価を出すには材料費・人工費・経費を現場ごとに集計する手間がかかり、決算までその作業を後回しにしているケースが大半です。

見積もり段階では感覚的な相場観があっても、値引き交渉が来た瞬間、その場で原価を再計算できる仕組みがない会社がほとんどです。結果、社長は「経験上、これくらいなら残るはず」という勘で数字を動かします。

現場が10件あれば、原価集計だけで月20時間は飛ぶという声もよく聞きます。忙しい現場監督にその時間を求めるのも酷な話です。だからこそ値引きのたびに利益率が削られ、決算で初めて「あの現場、赤字だったのか」と気づく会社が後を絶ちません。

次の現場からやったこと

この会社が変えたのは、値引き交渉の前に必ず原価シミュレーションを見る、というルールひとつです。営業担当か社長が、缶数・人工・経費を入力すれば粗利率が即座に出る状態を作りました。

次の現場、築15年のアパート改修(延べ床52坪)では、元請けから同じように値引き要請が来ました。今度は「20万円下げると粗利率が18%まで落ちます」とその場で数字を示せたため、値引き幅は8万円で決着しています。

私たちイーテクノスも塗装会社を自社で経営していて、まさにこの「感覚での値引き」に何度も利益を削られてきました。現場ごとの原価と粗利がリアルタイムで見えないまま、決算で数字が合わない苦しさを知っています。その経験から開発したのが、見積もり作成と原価管理を一つにしたAngaです。値引き交渉の場で粗利率を即座に確認できれば、社長の感覚は最後の判断材料の一つに戻ります。

78万円でいくって即答したの俺だけど、原価見てなかったわ正直

よくある質問

Q. 塗装業の適正な利益率はどれくらいですか

会社の固定費構造によりますが、粗利率30%前後を目安にする会社が多いです。人件費や車両費を賄った上で利益を残すには、25%を下回ると経営が厳しくなる会社が一般的です。値引き前に自社の損益分岐となる粗利率を把握しておくことが判断の軸になります。

Q. 値引き交渉の場ですぐ原価を確認する方法はありますか

見積もり作成時に材料費・人工費・諸経費をあらかじめ項目分けしておき、値引き額を入力すると粗利率が自動計算されるツールを使う方法があります。手計算やExcelでも可能ですが、交渉のスピードに追いつくにはシステム化が現実的です。

Q. 現場ごとの利益を決算まで把握できないのはなぜですか

多くの会社が見積もりと実際の原価集計を別々に管理しており、追加工事や資材のロスを都度反映できていないためです。現場終了時に実績原価を見積もりと突き合わせる仕組みがないと、赤字現場も黒字現場も決算まで気づけません。

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「今月は売上が立ったのに、なぜか手元に残らない」。外壁塗装の現場を10件こなしても、どの現場で利益が出てどの現場で消えたか分からない。この記事では、塗装会社が現場単位で粗利を把握するための実践的な方法を解説します。


現場単位で原価が見えない理由

夜21時の事務所、見積書と請求書を並べながら「この現場、結局いくら残ったんだろう」と電卓を叩く。その答えが出ないまま、翌朝の段取りに追われる。

塗装会社で現場別の原価管理が難しい理由は、費用が3つの層に分散しているためです。

  • 材料費:塗料・シーラー・下地材・養生テープ・ローラー消耗品など、現場ごとに品番と数量が異なります
  • 労務費:職人の出面(でづら/稼働日数)は日報ベースで管理されていますが、どの現場に何人工(にんく)投入したかが月末まで集計されないケースが多いです
  • 外注費:防水や鉄部ケレン(さびや旧塗膜の除去作業)を専門業者に出した場合、その請求書が翌月に届くことも珍しくありません

この3層がバラバラに処理されているため、現場が完了しても粗利が確定しません。

10件の現場を月内に完了させたとして、材料の仕入れ明細と出面表と外注請求書を突き合わせる作業だけで、月に15〜20時間は消える感覚があります。その時間を使えば、見積もりがあと2〜3本は書けます。

歩掛と標準塗布量を原価計算の基準にする

現場帰りの軽トラの助手席に、職人が手書きした日報が積み上がっている。その紙を事務所に持ち帰っても、数字として使えるのは翌週になる。

原価を現場単位で見える化するには、まず「歩掛(ぶがかり/作業1単位あたりの工数)」と「標準塗布量」を基準値として社内に持つことが出発点です。

歩掛の例を具体的に示します。

  • 外壁吹付(リシン面)のケレン:職人1人で1日あたり約80〜100㎡
  • 外壁の中塗り・上塗り(ローラー工法):1人工で約60〜80㎡
  • 鉄骨部の錆止め塗り:下地処理込みで1人工30〜40㎡

この数値は現場条件によってブレますが、自社の平均値を3〜5件分の実績から算出するだけで、見積もりと実績のズレが数字として見えてきます。

標準塗布量も同様です。例えばクリーンマイルドシリコン(塗装職人が「クリマイ」と呼ぶ製品)の標準塗布量は0.10〜0.14kg/㎡です。施工面積500㎡の現場であれば50〜70kgが理論使用量になります。実際の発注量とこの理論値を比較するだけで、材料のロスや希釈率(塗料を薄める割合)の管理ミスが発見できます。

なぜAngaは塗装業に特化して作られたか

LINEに色番の確認メッセージが3件届いている。「N80で合ってますか」「日塗工の色見本、どこに置きましたか」。こうした問い合わせに現場監督が一つひとつ返信する時間が、じわじわと利益を削っています。

Angaは、株式会社イーテクノス代表の井上恭介氏が塗装会社を経営する中で感じた課題をもとに開発されました。一般的な工務店向け管理ツールや汎用の会計ソフトでは、塗装業固有の運用に対応しきれない場面が多くあります。

  • 色番(日塗工・ND・SRなど規格が複数ある)を発注書に転記する際の入力ミスで、現場に違う色が届く
  • 「クリマイ」「SK化研のベルアート」など職人・業者ごとの略称や通称を、システムが正しく識別できない
  • 外壁塗装・屋根塗装・鉄部塗装など工種別の原価が一本化されず、現場単位の粗利が出ない

Angaは職人の呼称パターンを学習し、発注書への自動反映や現場別原価の集計を塗装業の業務フローに沿って設計しています。「汎用ツールを塗装業に合わせて使う」ではなく、「塗装業の現場から設計した」という点が本質的な違いです。

現場別粗利を月次で追うための3ステップ

月末の締め作業、材料仕入れの請求書を封筒から出しながら「あの現場の分は先月と今月にまたがってる」と気づく。そのたびに集計がやり直しになる。

現場単位の粗利を月次で継続的に把握するには、運用ルールを3段階で整備することが現実的です。

【ステップ1:現場コードを全伝票に紐づける】

見積書・発注書・日報・外注請求書のすべてに現場コード(例:2406-001)を付与します。材料の仕入れ伝票にも同じコードを記入するルールを徹底するだけで、集計の手間が大幅に減ります。

【ステップ2:完工時に3点セットを照合する】

現場完了のタイミングで「材料費合計・労務費合計(投入人工×単価)・外注費合計」の3点を見積もりと照合します。売上から3点を引いた数字が現場粗利です。この作業を完工から3営業日以内に行うルールにすると、月末に作業が集中しません。

【ステップ3:粗利率の下限ラインを現場タイプ別に設定する】

外壁塗装の新築アパートと、築30年マンション改修では適正粗利率が異なります。自社の過去実績から「このタイプの現場は粗利率〇%を割ったら要因を調べる」という基準を持つことで、問題現場を早期に発見できます。

この3ステップを回すことで、どの現場が利益を出し、どの現場で材料ロスや人工オーバーが起きているかが数字で追えるようになります。

現場が終わっても儲かったか分からんのが一番しんどい

15〜20時間
現場10件分の材料・労務・外注費を手作業で突き合わせた場合の体感値

10〜20%
希釈率の管理や発注ミスがあると標準塗布量ベースの理論値から乖離する

6割超
発注書への転記ミスは職人が缶を開けるまで気づかないケースが多い(自社体感値)

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